銀河と銀河のあいだに広がる巨大な空隙「ボイド」が、宇宙物理学の最前線で注目を集めている。ダークエネルギーの正体を探る手がかりとなりうること、そして宇宙の膨張速度をめぐって観測方法によって値がズレてしまう「ハッブルテンション」という未解決問題にアプローチできる可能性があることが、その理由だ。これまで「何もない空間」として軽視されがちだったボイドが、むしろ宇宙の根本的な謎を解くフィールドとして再評価されつつある。
「何もないところに何かある」というのは、物理学では珍しくない逆説だ。ボイドはまさにその典型で、銀河がほとんど存在しないからこそ、余計なノイズなしにダークエネルギーの振る舞いを観測できる「クリーンな実験場」として機能しうる。
ダークエネルギーは宇宙全体のエネルギー収支の大部分を占めるとされながら、その正体はいまだ不明だ。銀河団や宇宙の大規模構造を調べる従来のアプローチは、物質が密集しているぶんだけ重力的な複雑さも増す。一方でボイドは物質密度が極端に低いため、ダークエネルギーの効果が相対的に浮き上がりやすい環境と考えられている。これは「信号対雑音比」の話であって、新しい望遠鏡が必要というより、見る場所を変えるという発想の転換に近い。
もうひとつの焦点「ハッブルテンション」は、ここ数年で宇宙論のコミュニティがだいぶ頭を抱えている問題だ。宇宙背景放射から計算した膨張速度と、近傍の天体を直接観測して得た値がどうしても一致しない。誤差の範囲では説明しきれないズレが統計的に有意なレベルで残っており、「測定誤差」で片付けるには厳しくなってきている。ボイドの構造や成長速度はこの膨張速度と密接に関係するため、ボイドを系統的にマッピングすることで独立した「第三の物差し」を得られる可能性がある。
【編集部補足】
ボイド研究が現実的な進展を見せているのは、大規模サーベイ観測の精度向上と無関係ではない、と一般に言われている。広域にわたって銀河の三次元分布を高精度でマッピングできるようになったことで、「空っぽに見えるが実は微妙な構造がある」ボイドの内部を定量的に扱えるようになってきた、という議論が研究者のあいだで出ている。ただし、ボイドの観測からハッブルテンションやダークエネルギーの決定的な答えが出るまでの距離は、現時点ではまだかなりある。「鍵になりうる」という段階であり、解決済みの話では全くない点は押さえておきたい。
宇宙で最も「空っぽ」な場所が、実は最も情報量が多いかもしれない。そのスケール感は、やっぱりちょっとくらくらする。
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